ONLINE COURSE 2【Art theory】
アーカイブ9
アーカイブ5・6・7・8と4回に渡って、デッサンに関連した内容で解説してまいりました。
今回のレッスンでは今一度、初心に帰りどのように行えば上手く描けるのか、熟練者にはアプローチをしっかり思い出していただく事、又はじめて絵を描き始める方に向けて講座を行います。何回も耳にした事かもしれませんが、とてもシンプルでとても重要な事を復唱させていただきます。
どうぞよろしくお願いいたします。
対象は小学生から、そして今からデッサンを行う方、そして今一度基本を学ばれたい方にになります。
※Art Theory7でお伝えしている内容をより分かりやすくする目的で制作しています。ぜひもう一度Art Theory7をご覧になってください。
分離思考と統合思考
見て比較する行為は「モチーフ→描いている絵→モチーフ→描いている絵」この反復行為を繰り返す事で認識します。
デッサンを行なっている時、どこかモチーフはモチーフ、描いている絵は描いている絵、という分離思考が働いていないでしょうか。
自分の描く絵とモチーフが違うのは当たり前だと思わず、見ているモチーフも描いている絵も同じものだと認識し、描いている絵とモチーフの何処がどのように違うのかだけを意識します。
論理的な様々な測定法を使う事と、客体でモチーフの全体を理解する事で多くの問題は解決に近づきます。※Art Theory7で詳細記載しております。
上手く描く意識をする事や見たくない難しい部分をおざなりにするのではなく、事実だけを意識します。
モチーフと描いている画は何も変わらない同じものだと意識し、違いを知る努力を繰り返し、どれだけ修正を繰り返し行えるのかがとても大切です。
準備
fig1
fig2
支持体中央の定め方
まず描く支持体の中央を定めます。
支持体となる紙の四隅の対角を結び、交差した点が紙の中心になります。
fig1は支持体の中心を定める方法を図にしています。
Aの対角であるA’を直線で結び、Bの対角であるB’を直線で結びます。その直線が交差した点が支持体の中心になります。
fig2はfig1で定めた中心を元に垂直線と水平線を加え、支持体の4等分ガイドを作っています。
デッサンスケール用ガイドの作り方
fig3
fig4
デッサンスケール用ガイドの作り方
中心を定め4等分するまでは上記、fig1fig2と同じです。
加えて、4等分した小さい長方形をfig1fig2と同じ手順で中心を定めればfig3からfig4のように16等分したデッサンスケールのグリッドが完成します。
よく使われるサイズによるデッサンスケール用のガイド位置数も記載しておきますので参考にしてください。(mm表記・小数点以下四捨五入)
F6サイズ(410x318)
長辺:410→308→205→103
短辺:318→239→159→80
F8サイズ(455x380)
長辺:455→341→228→114
短辺:380→286→190→96
F10サイズ(530x455)
長辺:530→398→265→133
短辺:455→341→228→114
木炭紙サイズ(650x500)
長辺:650→488→325→163
短辺:500→375→250→125
B3サイズ(515x364)
長辺:515→386→258→129
短辺:364→273→182→91
B2サイズ(728x515)
長辺:728→546→364→182
短辺:515→386→258→129
分割法
3分割
fig5
fig6
fig7
3分割の作り方
対角を直線で結び、交差した点が中心となるまでは上記、fig1fig2と同じです。
ここから三等分する場合、fig5にあるA→B→Cに直線を描きfig6のようにします。すると角の対角を結んだfig1での対角線とfig6で描いた線の交差した場所に水力線を入れると三等分した垂直線が定められます。
5分割
fig8
fig9
fig10
5分割の作り方
fig5〜fig7までの工程を行い、fig8にて中心に水平線を加える。
fig9にて3分割した時に定めた縦線に、対角になる直線を加えます。
fig9にて加えた対角線と中心の水平線の交わる点に垂直線を加えるとfig10のような5分割が完成します。
姿勢
fig11
fig12
伸ばす事で信頼度を高める
fig11のように背筋を伸ばし、はかり棒を持つ腕の肘は伸ばした状態で対象を測定します。
背筋や肘を伸ばす意図は、視点位置を固定しておく為です。肘が曲がった状態ですと、前回どれ程曲がっていたのかを再現することが難しい為、肘を伸ばしてできる限り信頼度を高めます。同じように姿勢を良く背筋を伸ばすことも同じで、曲がった背筋で対象を測定すると、曲がり角度の再現性が難しいために背筋を伸ばします。
fig12は実際にモチーフを測定している時の見え方です。
比較し違いを認識する
「モチーフと描いている絵を見比べる」当たり前ですがこれが基本で中心です。
描いている絵を上手にして行く事ではなく、モチーフと描いてる絵を比較し違いを理解し再現する事に終始します。
見比べているけど分かりづらい方は、全体から細部に至る基準を作り測定してください。
全体を理解す場合、客体を見て全体、塊を理解します。客体は主体の逆、モチーフそのものではなく背景や稜線だけを見ることを指します。
モチーフの細かな違いを理解するには、基準となる中点を作り、そこから上下左右どのような位置に何があるのかを論理的に理解し描きます。
見たいように見ていないか、見たくない部分を見ないようにしていないか、自分の行動を客観的に観察してください。
まずこの「本当にものを見比べている」という行動を理解するには、「何が見ている状態なのか」を理解しなければなりません。
縦横比
モチーフの上下左右を空想の枠で囲み、縦横の比率を導き出します。
凡その縦横比が定まればその中でどのようにして描くのかを進めていきます。
比率は、はかり棒や鉛筆で縦横の短い辺を基準にし、短辺を1と仮定し、それに対して長辺が幾つになるのかを測定します。
縦横比測定(鉛筆・目盛無しのはかり棒)
fig13 モチーフを空想の枠で囲む
fig14 短辺を基準にし長辺を測定する
fig15 凡その比率を測定する
fig13 モチーフの最も突出した上下左右の部分を空想の枠で囲み、縦横の長短を調べます。
fig14 短辺にはかり棒や鉛筆をあてがい、基準となるサイズを作ります。鉛筆であれば鉛筆の芯先を短辺の端、持っている手の親指でもう片方の端を定めます。
fig15 fig14で測定した短辺を1と仮定し、長辺に何個の短辺が入るかを凡そ測定します。図で見ると凡そ縦横比は1:1.4〜1.5となります。
縦横比測定(アルテージュはかり棒)
アルテージュはかり棒は優秀で、鉛筆やスポークよりもサイズや角度を測る精度が高いです。
本体には目盛が印字され、ネジで固定できるピアノ線が連結されています。
この目盛を使いサイズを測定したり、ピアノ線を固定し角度やサイズを測る事が可能です。
fig16 目盛により縦横比を計算する
fig17 ピアノ線を垂直にし角度を測定
fig18 ピアノ線と本体で角度を測定
fig16
はかり棒に記された目盛を短辺長辺共に読みます。
長辺➗短辺=X:1ですので、目盛の数字を元に算出します。
fig17
ネジを緩めピアノ線を垂直に垂らし、はかり棒本体を対象の角度に合わせネジを締める事により垂直基準の角度が定まります。この図の場合、向かって左肩と右首付け根を結ぶ角度を測る目的で使用しています。
fig18
はかり棒本体とピアノ線を、対象とするモチーフの角度に合わせ固定し測ります。はかり棒は向かって左目尻と口角を結ぶ点を合わせ、ピアノ線は右目尻と口角を結ぶ点を合わせています。測定したこの角度を用いて、描いている絵も合わされるようにします。
このようにアルテージュはかり棒には、目盛と締緩装置(ていかん)とピアノ線が備わり、様々な方法で測定する事が可能になっています。
観るという事
観る事の重要性
デッサンで稜線を追っている時、モチーフを見る時間と描いている絵を見る時間、どちらが長いでしょうか?
モチーフを見ている時間の方が長いでしょうか?描いている絵を見ている方が長いでしょうか?
この見る時間比も上達に重要な要素となります。
抽象表現や作品作りでない限り、デッサンはそもそもモチーフを画面に描き写す事を目的としています。
つまりモチーフを描き写すのですから、しっかりモチーフを見ていないと絵に描けません。
人間の感覚記憶、視覚系記憶であるアイコニック記憶はたった1秒です(※)。これは記憶力の高い人であっても変わりません。何個かの要素を記憶する短期記憶も長くて30秒ですので、モチーフをある程度の時間しっかり見ているという事がとても大切です。
しっかり見て描く事が重要ですが、手のコントロールの巧拙により描く作業がおぼつかない場合もあります。小学生は絵を描く為の手の動かし方以前に、まだ手のコントロールそのものが未発達ですので、描いている時間の方がどうしても長くなります。デッサンを描き始めた方も含め、何度も繰り返す事でデッサンを行う際の手の動かし方、モチーフを見るタイミング、そして仕事の構成を覚え論理的な方法を取れるようになります。
「見る、描く」この動作の割合を等しくする事が上達する一歩でもあります。
※記憶には短い順に「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」があり感覚記憶は視覚系で1秒、短期記憶は(7±2)の情報量を15秒〜30秒、長期記憶は数時間〜数十年とされています。
見る速度による投影技術
fig19 モチーフ
fig20 描いた絵(イメージ)
fig21 fig19、20を重ねたもの
もう一つ、モチーフと描いている絵を見比べる速度を早くすることによって、両方の像を重ねて見ることも可能です。
例えるならばプロジェクションマッピングは建物に立体的な像を投影し重ねて見せますが、モチーフと描いている絵をある程度の速度で見比べる事で、fig21のような違和感を感じられるようになります。
縦横比やスケールを使った測定は論理的な測定で、この投影技術は直感的な感覚を頼りに行う測定です。
モチーフfig19→描いている絵fig20→モチーフfig19→描いている絵fig20・・・と見る行為を0.5秒程の速度で繰り返す事でfig21のような重ねて形を感じる事が可能です。
客観力
デッサンは見ている部分を描きます
デッサンは見ている部分しか描けません。見ていない部分は描けません。
とても当たり前の事実ですが、この当たり前の事実をどのように解釈しているのかで上達に変化が現れます。
「見ている」という事と「見えている」という事は違います。
対象の描こうとする場所をどのように解釈すれば、忠実に描くことができるのかを知っていなくては見ているという事にはなりません。
何年もデッサンを行い、2、300枚は描いた人ならば、直感的に描こうとする対象の様々な関係を理解し、描画できると思います。ですが、デッサンを描き始めの方は何をどのように理解すれば描けるのか漠然としていて、なんとなく形を描いているという感覚ではないでしょうか。
それは雲を掴むようなものと同じだと思います。雲は決して掴めません。
どのデッサン指南書にも書いている内容が、論理的な位置測定の方法をマスターする事をレッスンにしています。
絵画・アートは感覚的で漠然としていて、論理的な指標のない才能やセンスの世界だと考えがちですが、それは絵画・アートを学んでいないが故に起こる勘違いです。才能やセンスについて深く語れば長くなるので割愛いたしますが(いつか深掘り内容をお伝えしたいです)、モチーフを忠実に再現描写する事はほぼほとんどの方が達成できる技術力です。デッサンは技術であって才能ではありません。
見ている部分=知識
曲がっている気がする、なんとなく細く感じる、小さいんじゃないのかな、といった曖昧な解釈ですとデッサンも曖昧なプロセスを辿ります。
曲がっていると感じたのは、どこを対象にして、どれぐらいの角度曲がっているのかを言葉で説明できないといけません。モチーフを分析した時に言葉でしっかりと説明できることがとても重要です。デッサンは目の前の情報を如何に論理的に解釈できるのかが重要だからです。
fig22
fig22の瓶を、的確な言葉でできる限り形を説明してください。
抽象的な言葉ではなく、具体的な言葉に置き換えることが重要です。
行なってみた結果、形の特徴を言葉に置き換えて説明する事ができたでしょうか。上部の細い口部や首部と、液体を貯蔵する太く長い胴部とのサイズ比を言葉で表せたでしょうか。長さ、太さ、凹凸や歪曲部の説明、できる限り言葉で行えるように様々なモチーフで訓練してください。
この訓練が認知力の向上に繋がり、読解力を養います。
没入と俯瞰
没入するとが周り見えなくなる時がありませんでしょうか。
様々な場面で物事を多面的に捉える努力を行うように、一視点だけで物事を見ることの危うさをご経験されていると思います。
デッサンも同じように、全体を見ずに部分的な捉え方で構成していくとズレや狂いが生まれやすくなります。全体を把握するように客体を意識しますが、気づけば没入し部分的な表現を行なっている時があります。
デッサンでは冷静になる為に席を立ち、後方から俯瞰して描いている絵を確認します。
後ろに下がって確認するこの行為は、没入しすぎた感覚をリセットする意図も含んでいます。
後ろに下がらずして客観性を担保する為には客体の意識を強く持ち、様々な場所を見ないようにする技術を養うことです。
集中する事と、没入する事は違います。冷静な自分を養う為に俯瞰意識を養う為に客体で物を見るコントロールを養ってください。
何事もトライアル&エラーの繰り返し
冒頭でもお伝えしましたが、違いを知る努力を繰り返し、どれだけ修正を繰り返し行えるのかがとても大切です。
同じ方法を行うことは前回の行動をなぞることを意味します。それはそれまでの行動を踏襲している事になりますので、得ることは時間の使い方や仕事の運び方の速さとなります。できる限り、前回とは違う仕事の進め方や手順を変え、違いを比べ、どちらがどのような効果と結果があったのかを地道に判断し経験則を高めていきます。
デッサンに限らず全ての物事がそうですが、トライアル&エラーを繰り返す事で違いを理解し成長していけます。